SC09(Supercomputing2009)国際会議に参加して

1.SC09概要

・開催期間 2009年11月14日~11月20日
(本学からは松澤研、情報科学センターから8名参加、安藤は15日から20日参加)
・開催地 Oregon Convention Center, Portland, Oregon, U.S.A.
・SC09はHigh Performance computing, networking, storage and analysisの分野で由緒ある年次国際会議で今年は第22回に当たる。今年度も非常に幅広いトピックスをカバーしたtechnical program ( tutorials, papers, panels, workshops)で構成されている、まさにHigh Performance computing (HPC)分野での世界最大級で最先端の国際会議である。


図 1:オレゴン州コンベンションセンターとMAX駅

・今年度の特徴として、HPCが革新的に活用される3つの重点技術分野、すなわち3D Internet, Bio-Computing, Sustainability に焦点を当て、”Computing for a Changing World”を会議のテーマとして掲げている。17日、18日、19日のOpening speakersはそれぞれの3重点分野に対応して、Justin Rattner (Intel Corporation), Leroy Hood (Institute for Systems Biology), Al Gore (Former U.S. Vice President)が登壇し将来に向けた方向性を示している。
・今年のexhibitionは255,000 square feetのtrade show floorに300を超える機関が参加してまことに壮観なexhibitionとなり、先端的企業、研究機関、大学などの活発な研究ならびに実践活動が展示されている。JAISTもブースを設け(Aブロック2797番地)、情報科学研究科並びにマテリアルサイエンス研究科の研究成果を展示している。多くの先端的機関に伍してJAISTが先端的な大学院大学としてこれらの発信していることは誠に心強い。

 
図 2:JAIST Exhibition Booth

2.3重点分野に関するOpening/Plenary/Keynote addresses

(1) Opening Address: The Rise of the 3D Internet: Advancements in Collaborative and Immersive Sciences by Justin Rattner (Intel Corporation)

インテルのCPU開発部隊がポートランド近郊にあり、インテルのCTOであるラトナーという企業技術開発責任者の講演らしく、具体的なデモや関係分野のキーマンを壇上に呼んで会話するという非常にフランクなスタイルの講演であった。
HPCにはキラーアプリケーションが不可欠だという。その筆頭が3D-WEBだという。連続的なシミュレーション、3Dアニメーション、埋め込みコラボレーション等である。Utah state univ.の研究者がライブで登場し、science simulationがデモされる。ファッション業界での使い方、グラフィックシミュレーションでアパレルの製作コストが60%削減できるという。埋め込みコラボレーションという関連では、HPCとクラウドとの融合が今後起こるということでその先端事例とアーキテクチャが紹介される。最後にCPU-GPUのインタラクションを実現したインテルの最新のLarrabeeの実演が行われ、4K×4Kの行列の掛け算で1TFLOPSをマークして、締めくくっている。
Larrabeeについては、HPC用途とグラフィック用途のどちらを狙っているのか3段階ほどのプロジェクト展開をしているといわれているが、今回はHPCでの使い方が主力のPRである。インテルの現役の技術責任者の講演ということで具体的でアクティブな講演だったと思う。いずれにしてもものすごい能力を持ったチップである。(グラフィックについては特に命令セットの問題からRadeonなどの専用プロセッサーの後塵を拝しているという見方が多い。)

(2) Plenary Speaker: Systems Medicine, Transformational Technologies and the Emergence of Predictive, Personalized, Preventive and Participatory (P4) Medicine by Leroy Hood (Institute for Systems Biology)

今度は学究的研究者による非常に深い講演である。語り口も非常に知的で熟慮的である。基調となる思想はBiologyを情報科学として眺めるという点にある。生物学的な情報が生物学的ネットワークのコンセプトで整理でき、最終的にはその情報蓄積、分析用のチップで処理できるという。
特に病気に対するシステム的アプローチにフォーカスしたプレゼンが続く。最初に講演者自身の5年にわたるマウスのプリオン病(クロイツフェルト=ヤコブ病のマウス版か?)に関するシステム的アプローチの有効性である。次に紹介されるのが、今後の10年間に大きく変わると予想されているシステム的医薬(DNA sequencing, microfluidic protein chips)である。次世代の健康管理の切り札としてDNA sequencingとナノテクを利用したblood protein measurementsがあって既に実用化は目の前という。そしてこれらのデバイスによる情報は情報科学や数学の理論で分析される。これから先5年から20年はP4:predictive, personalized, preventive, participatoryをキーワードに大幅な健康管理の効率化、コストダウンが得られるだろうという。
非常に長期的な含蓄を含む、また具体的な個人の健康管理の解決策を含む素晴らしい講演だったと思う。遺伝子や健康にかかわる各種悲観的な要素もある中で、非常に楽観的な観点からシステムにチャレンジしていて、かつなるほどと思わせるところはさすがである。

(3) Keynote Address: Building Solutions: Energy, Climate and Computing for a Changing World by Former U.S. Vice President Al Gore

日本でも「不都合な真実」が訳出され、ゴア元副大統領の活動はよく知られている。こういうビッグネームを基調講演に持ってくるあたりはアメリカ的である。内容的には彼のかねがね主張していることばかりだった。彼は持続性ある投資への新しいアプローチを推進するGeneration Investment Managementのチェアマンであり、今回のSC09の一つのキーワードsustainabilityはまさにうってつけの人物といえる。
彼の講演で特に気がついた点を述べるならば、まず彼はreviving politicianと相当回数自分を語った点である。やはり政治家に戻る、大統領選を念頭に置いていると感じた。もう一つは彼のスピーチである。経験豊かでうまい、クリアな発音とプレゼンなんだが、非常にゆっくり喋るのには驚いた。子供を諭すような話し方に聞こえないのかと心配するほどであった。HPCとの関連性については気象などのアプリに簡単に触れた程度であり、まあ政治的意味合いを含む思想的な位置づけとみなすんだろうと感じた。


図 3:Kennedy Award Speech (Prof. F. Bermann)

3. 雑感

・国際学会での触発について:

アメリカでの上記3重点分野での長期的ヴィジョンの下、活発な活動と人材の層の厚さ、ヨーロッパのunion全体でのコラボーション活動(PRACEプロジェクト:The Partnership for Advanced Computing in Europe)等、最先端スーパー・コンピューターのハードウェア開発のみならず、その組織的活用、サービスの提供面も含め国家的グランドスタラテジーに沿って進められていることに深い触発を受けた。特定のアプローチにこだわるのではなくていろいろなアプローチを認め、議論と実践を通じてコラボレーションしていくためのフレームワーク作りが日本に比べて格段に優れていると思われる。このあたりは日本の多くの関係研究者・機関がこういう国際的な場などを通じて学ぶ必要があると思う。

・日本のスーパーコンピューター開発:

帰国後、民主党政権が行った事業仕分けでスーパーコンピューターの扱いが問題となった。当初の否定的結論にノーベル賞受賞者がこぞって批判、首相と直談判までして、結局40億強の減額で227億が付いたが、どうも日本のスーパーコンピューター事業は「最速」ハードに特化しすぎている感があり、欧米のようにアプリケーションまで含んだグランドデザインに欠けるところがあるとかねがね思っていた。今回の事業仕分けについてはいろいろな批判もあるものの、SC09等での欧米の動向を見るにつけ、日本のスーパーコンピューティング事業推進においてもっと幅広い技術価値観(とくにアプリケーション)でのアカウンタビリティが必要であると考える。

・ポートランドの美しい街並みと自然:

オレゴンからカルフォルニアにかけては富士山に勝るとも劣らない雄姿を見せる山々がある。シアトルにはMt. St. Helens(2555メートル:1980年噴火し、数百メートル低くなった)、ポートランドにはMt. Hood(3426メートル)、ワイリカにはMt. Shasta (4322メートル)とカスケード山脈の山々が続く風光明媚な自然がある。ポートランドはビクトリア風の住宅の並ぶ丘陵地とダウンタウン、そして街中を流れるWillamette Riverの対岸にコンベンションセンターがある美しい街である。


図 4: Portland丘陵地住宅街

有名な交通機関であるMAXは郊外では高速鉄道となり、市内ではチンチン電車となり非常に便利である。しかも非常に安価である(たとえばダウンタウンとコンベンションセンターは無料、ダウンタウンと国際空港は約40分乗車して2ドル30セントである)。物価も安く全米でも住みたい町として評価が高い。人口は約55万人、平均収入が4万~5万ドルということでアメリカの中間所得層が住む「田舎」といえるが住みやすそうに見える。人口の13.1%、家族の8.5%が貧困線以下とウィキペディアに記載されている。ダウンタウンでは比較的程度の良い浮浪者がかなり目立った。
オレゴン州のコンベンションセンターに代表されるように、ダウンタウンは結構立派なビルが建っている、その割に人口が少なく、町を歩いてもあまり人を見かけないくらいだ。こういうところに社会整備の資本をアメリカは相当投じているのだと改めてその国力に感心した。

以上